編集後記
―民主党政権と内需の柱としての住宅政策―

 約50年続いた自民党長期政権が崩れて、民主党政権が誕生した。
民主主義国家では政権交代が起こるのは自然の成行きである。

 戦後の長期政権が政・官・経の連係によって、世界に例を見ない奇跡的経済成長を成しとげた。

 表裏一体が世の無常であるが、政・官のしがらみや癒着、 既得権等々に縛られ思い切った改革が出来ない体制が構築 されてしまった。

 所謂、官主導である。

 志ある政には気力ある官が従い、志無き政治家には横暴で専制的官僚がはびこる事になる。

 民主党政権が政主導を標榜するのは自然の哲理である。

 健全な民主主義は自民党が健全な野党として、民主党に対峙する事であり、与党である民主党に移ったり、新党を創る事ではない。

 野にあってこそ、民意を鋭くキャッチし(小局)世界の 中の日本(大局)を関連的に考慮し、時間を有効に活用でぎ る野党であってこそ実力を身に付けるチャンスなのである。世界は河の流れの如く変動している。

 物流は太平洋から大西洋へ比重が移り、米国的心理に従 う事に慣れていた日本で新しい指導者は新機軸を見出そう と苦悶している。

 世界同時不況の中でGDP比5%強のオバマ政権の財政出動に対して、中国は17%に及ぶ財政出動によって、欧米 に先駆けてこの事態を回避してしまった。

 グローバル経済に於いて「coupling」の輪の中に当初入っ ていた中国は先進国を反面教師として、充分な規模と迅速 な対応で財政出動を行い、「de-coupling」を成し遂げたの である。

 片や日本では、近年、財政出動を「カネの無駄遣い」というマスコミの大衆迎合的報道によって、デフレスパイラル に落入っている。

 日本としては、拡大する中国、アジアに地産地消を求めてシフトする外需と先進国に比べ大幅に遅れている住宅と いう内需の柱としての長期的取組が必要である。

 前者は企業利潤の追求に於いて、プラスであるが(ミク ロ)、日本社会にとって(マクロ)、空洞化を齋し、生産や雇用にプラスを与えるものではない。

 後者は地震、台風が多発する国としての安心、安全の社会インフラ整備という国家的プロジェクトの構築である。

 外需は本質的に個々の企業の視点であるが(国家として 取組むプロジェクト的外需もあるが)、内需は国家として 存続する為に生産・雇用を維持する使命を基に種々の政策 が立案されなければならない。

 日本の住宅は先進国の中で耐用年数、床面積共に最小であり、GDPに占める国家予算もイギリスの1/10と最も少ない。

 住宅に関わる規制緩和は土地の有効利用に始まり、借地借家法、容積率、建蔽率、日照権問題と多岐に渡り、改善、 改良する余地が多々ある。

 政府が住宅分野に内需拡大の方針を打出せば、そのシナ ジー効果は多くの国内産業(木材、建材、セメント、鉄、 アルミサッシ、ガラス、金物、電線、洗面、厨房器具、電 気製品、家具、インテリア用品)に及び、その経済活性化 により住宅が10万戸増えれば26万人の雇用が創出される。

  阪神淡路大震災は死傷者の80%が木造住宅倒壊によって引き起こされた大惨事である(その対象は往宅ストックの約 1/2、2.100万戸―平成10年住宅・土地統計調査)。

 現在でも、1982年新耐震法施行以前の耐震性のない古い合法木造住宅が約1,300万戸有ると言われている。

 これらの木造住宅を国家として、安全、安心の社会資本 整備の見地から、公共工事の一環として、補助金を支給し、 積極的に建替を推進すれば、長期に渡り雇用が創出され内 需が拡大する。

 温室効果ガスの排出量が最も少ない長期優良木造住宅 (耐震、耐火、耐久、防災、安全)の振興を図るに当たって、国産材、輸入材に関わらず、住宅部材加工設備に補助制度 を強化・拡大し、製造・加工の国内回帰を図り、雇用確保 と内需拡大に取組む事である。

 従来日本は外需取り込み政策を得意として多くの大企業が海外進出し、発展してきた。

 外需依存が多であれば、海外の景況をその分受け、国内景気は左右される。

 狭い国土の国として、外需が重要である事は論を待たないが、GDP世界3位の国家として、内需に主導を置く転 換点に差しかかっている。

 資金を市場から有利且つ自由に調達できる大企業と資金繰りを金融機関(保証協会)に依存する中小企業とは全く異なる体質がある。

 事業所比率99.7%、従業員比率70%の中小企業が研究、 開発、生産する基盤に対する補助金制度は余にも脆弱である。

 今時の様なデフレにあって、低金利による長期的且つ弾力的資金繰り対策を推進する上で、保証協会の抜本的改革が必要である。

 健全なモノ作り中小企業の命運を保証協会が握っている現実と日本の文化、伝統というノウハウの危機にも差しかかっている。
原口博光

木工機械 2010 1月号 No.210

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